まず結論:最初の半年は「成果」では測られない
M&Aの案件は、初回の面談から成約まで長い時間がかかります。相手企業の選定、条件のすり合わせ、デューデリジェンス、契約。どれも自分の頑張りだけでは短縮できない工程が挟まります。相手のあることだからです。
つまり、入社した月に動き出した案件が、その期の数字になることはまずありません。入社直後の数ヶ月間、自分の成果指標はほぼゼロのまま推移します。これは能力の問題ではなく、業務の構造です。
ここを知らずに入ると、3ヶ月目あたりで「自分は向いていないのではないか」と考え始めます。実際には、そこで見られているのは成果ではなく、案件を前に進める動き方のほうです。評価の軸が違うところにあると分かっているだけで、この時期の受け止め方は変わります。
時期ごとに任されること
会社や職種によって差はありますが、未経験から入った場合の立ち上がりには、おおむね共通した順序があります。
| 時期 | 任されることが多い仕事 | この時期のポイント |
|---|---|---|
| 1〜2ヶ月目 | 業界・制度の座学、既存案件の資料読み込み、リスト作成、議事録・記録の整理 | 覚える量が最も多い時期。用語と手続きの流れを体に入れる |
| 2〜4ヶ月目 | 先輩への同行、初期接触(電話・手紙・メール)、企業概要資料の作成補助 | 初めて相手と接する時期。断られる回数も最も多い |
| 4〜6ヶ月目 | 担当としての初期面談、資料の一次作成、進行中案件のサポート | 自分の案件が動き始めるが、まだ成約には遠い |
| 6ヶ月目以降 | 案件の主担当、相手方との条件調整 | ここでようやく、成果として見える形になり始める |
職種によって、この順序の中身は変わります。仲介であれば初期接触の比重が大きく、FASでは分析・資料作成から入ることが多くなります。職種ごとの仕事の流れはM&A仲介とFASの仕事の流れで、職種そのものの違いはM&A業界の職種で整理しています。
数字が出ない間、何が見られているか
成果が出ない期間にも、評価は行われています。見られているのは、おおむね次の4点です。
- 反応の速さ——相手からの連絡に、どれだけ早く一次回答を返せるか。内容の完成度より速度が効く場面が多くあります
- 記録の正確さ——誰が何を言ったか。M&Aは長期間・多人数で進むため、記録の質が案件の質に直結します
- 案件の温度を落とさないこと——放置すると相手の関心は冷めます。動きがない期間にどう接点を保つか
- 分からないことを早く出すこと——抱え込みが最も損害になる仕事です。「分かりません」を早く言えるかは、評価される能力です
特に4つめは、前職で「自分で調べて解決する」ことを評価されてきた人ほど詰まります。M&Aでは判断を誤ったときの影響が大きく、確認せずに進めることのほうがリスクとされます。ここは、これまでの成功パターンを一度置き直す必要がある部分です。
つまずきやすい3つの場面
1. 3ヶ月目の「何も進んでいない」感覚
覚えることは一巡し、同行にも慣れた頃。しかし自分の案件はまだ形になっていない。成長の実感がいちばん薄くなる時期です。
ここで効くのは、成果ではなく行動を記録しておくことです。何件接触したか、何を学んだか、どの工程を一人でできるようになったか。数字が動かない時期に自分を支えるのは、この積み上げの可視化です。
2. 断られ続けること
初期接触の段階では、断られるほうが圧倒的に多くなります。相手にとっては、会社を売るか買うかという極めて重い判断だからです。断られたことを個人への評価と受け取ると、この仕事は続きません。
逆に言えば、ここは「向き不向き」がはっきり出る場面でもあります。適性の考え方はM&A業界に向いている人・向いていない人にまとめています。
3. 案件が途中で止まる
何ヶ月もかけて進めた案件が、条件が折り合わず止まることがあります。これは珍しいことではなく、構造的に一定の割合で起こります。
止まった案件をどう扱うかは、会社によって考え方が分かれる部分です。個人の担当分として抱えるのか、チームで引き継ぐのか。ここは入社前に確認しておくと、立ち上がり期の負荷の見通しが変わります。会社ごとの体制の違いはM&A会社の規模による違いと選び方で整理しています。
前職の経験がどこで効くか
「未経験だから一からやり直し」と考える必要はありません。実際には、前職の経験が早い段階で効いてくる場面があります。
| 前職の経験 | 効いてくる場面 |
|---|---|
| 法人営業 | 初期接触、経営者との対話、関係の継続。立ち上がりが最も早い層とされます |
| 金融機関 | 決算書の読み方、審査の観点、企業の見立て |
| 会計・経理・税務 | 財務資料の理解、デューデリジェンスの論点整理 |
| コンサルティング | 資料の構成力、論点の切り分け、進行管理 |
| 事業会社の管理部門 | 社内手続きの実務感覚、経営者が何に困るかの理解 |
共通して言えるのは、M&Aの知識は入ってから覚えられるが、経営者と対等に話す感覚は持ち込むしかないということです。前職で誰と話してきたかは、想像以上に効きます。職務経歴書でどう表現するかはM&A業界向けの職務経歴書の書き方を参考にしてください。
入社前に確認しておくとよいこと
立ち上がり期の負荷は、会社の体制でかなり変わります。面接の場で確認しておくと、入社後のギャップが小さくなります。
- 入社後、最初の3ヶ月はどのような業務から始まりますか
- 教育・OJTはどなたが担当されますか(専任か、案件の合間か)
- 未経験で入られた方は、平均してどのくらいで初回の成約に至っていますか
- その期間、評価はどのように行われますか
- 案件は個人で持つ形ですか、チームで進める形ですか
3つめと4つめは、セットで聞くと実態が見えます。「成果が出るまでに時間がかかる」ことを会社が前提にしているかどうかが、この質問への答え方に表れるためです。逆質問の組み立て方全般はM&Aの選考・面接で本当に見られていることにまとめています。
まとめ
M&A業界の立ち上がりで必要なのは、特別な才能ではなく「成果が出るまで時間がかかる」という構造をあらかじめ知っておくことです。数字が動かない数ヶ月間、評価されているのは反応の速さ、記録の正確さ、案件の温度を保つこと、そして分からないことを早く出せること。どれも、入社初日から実行できます。
そして、前職の経験は思っているより早く効きます。知識は入ってから覚えられます。持ち込むべきは、人と向き合ってきた経験のほうです。入社後の道筋についてはM&A業界のキャリアパスもあわせてご覧ください。
立ち上がりの環境は、会社によって大きく違います。ご経験に合う入り方を一緒に整理しませんか。
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