志望動機は「熱意」ではなく「選び方」を見られている
採用する側の関心は、候補者がM&Aを好きかどうかではありません。入社後に立ち上がり、続けられるかどうかです。志望動機はその判断材料として使われます。
この仕事は、案件が動く時期には負荷が集中し、成果が出るまでに時間もかかります。それを知らずに憧れだけで入った人は、早い段階で離れていきます。だから面接官は「どれだけ熱心か」ではなく、他の選択肢と比べたうえで、負荷も含めて理解して選んでいるかを確かめようとします。
そして、その確認は次の3層に分かれて行われます。
| 層 | 問われていること | 用意していない人が多い層 |
|---|---|---|
| ① 業界:なぜM&Aか | 他の道と比べた結果として選んでいるか | ほぼ全員が用意している |
| ② 職種:なぜ仲介/FASか | 仕事の中身を具体的に理解しているか | ここで落ちる人が最も多い |
| ③ 会社:なぜ当社か | 会社ごとの違いを踏まえて選んでいるか | 用意していても内容が浅くなりやすい |
3層のうち①だけで話し終えてしまうと、面接官には「M&Aという言葉に惹かれている人」に見えます。逆に②と③まで自分の言葉で説明できる候補者は、それだけで「調べたうえで来ている」と受け取られます。
層① なぜM&Aか——「比べた形跡」を残す
1層目で効くのは、志望の強さではなく比較の痕跡です。「企業の重要な意思決定に関わりたい」という説明は、コンサルティングでも経営企画でも成り立ちます。つまり、そのままではM&Aを選んだ理由になっていません。
有効なのは、近い選択肢を挙げたうえで、なぜそちらではなかったのかを言い切る形です。
- 提案までで終わらず、成立まで自分が関わり切りたい(=助言だけの立場との違い)
- 組織の内側からの改善ではなく、当事者どうしをつなぐ側に立ちたい(=経営企画との違い)
- 担当した仕事の結果が、企業の存続や引き継ぎという形で残る(=事業承継の領域を選ぶ理由)
ここで重要なのは、比較対象を実際に検討していることです。検討していない選択肢を挙げると、深掘りされた瞬間に崩れます。なお、業界そのものを選ぶ理由を整理する材料としてはM&A業界の市場動向が使えます。
層② なぜこの職種か——最も落ちやすいのはここ
2層目でつまずく人が多いのは、仲介とFASの違いを、日々の仕事の粒度で説明できないからです。「どちらもM&Aに関わる仕事」という理解のまま面接に来ると、「では仲介でなくてもいいのでは」と返され、そこで止まります。
両者は関わる工程も、時間の使い方も異なります。
| 観点 | 仲介 | FAS |
|---|---|---|
| 関わる範囲 | 相手探しから成立まで一気通貫 | 特定の工程を専門的に担う |
| 相手 | オーナー経営者と直接向き合う | 依頼企業の担当部門と組む |
| 求められる力 | 関係構築と、意思決定を前に進める力 | 数字の精緻さと、論点の整理 |
| 成果の実感 | 成立という明確な区切りがある | 担当工程の質で評価される |
この違いを踏まえたうえで、自分の経験がどちらに接続するかを述べると、志望動機は一気に具体的になります。1日の流れの単位での違いはM&A仲介とFASの1日の仕事の流れの違いで詳しく扱っています。適性の軸から逆に確かめたい場合はM&A業界に向いている人・向いていない人もあわせてご覧ください。
層③ なぜこの会社か——「知名度」で答えない
3層目で最も多い失敗が、ホームページに書いてあることをそのまま志望理由にしてしまうことです。実績数や知名度は、どの候補者でも同じ内容になります。
会社ごとに本当に違うのは、案件がどこから来るか・仕事がどこまで分業されているか・教育が仕組み化されているか・報酬がどう決まるか、の4点です。このうち自分にとって重要な軸を1つ選び、その軸でこの会社を選んだと述べると、志望動機は他の候補者と重なりません。
- 「前職で新規開拓を担当していたので、自ら相手を探しにいく案件ソースの会社を選びたい」
- 「未経験からの立ち上がりに再現性を求めたいので、教育が仕組みになっている環境を選びたい」
- 「成果が反映されるまでの期間を長く見込んでいるので、固定と歩合の比率がこうなっている点を選んだ」
4つの軸それぞれが会社ごとにどう変わるかはM&A仲介会社は規模で選ぶと失敗するで整理しています。
職務経歴書と志望動機は、役割が違う
この2つを同じ内容で埋めてしまう方がいますが、役割は別です。
| 書類 | 答えるべき問い |
|---|---|
| 職務経歴書 | これまで何ができるようになったか(過去の実績) |
| 志望動機 | その力をなぜここで使うのか(今後の接続) |
順序としては、職務経歴書を先に固めてから志望動機を書くのが確実です。自分の強みが定まらないまま志望動機を書くと、どうしても抽象的な言葉に寄ります。経験の翻訳の仕方はM&A業界の職務経歴書の書き方で扱っています。
よくある落ち方4パターン
| 落ち方 | 面接官にどう聞こえるか | 直し方 |
|---|---|---|
| 成長したい・裁量が欲しい | どの業界でも成り立つ | M&Aでしか得られない経験に置き換える |
| 経営者と話せる仕事に惹かれた | 憧れの段階で止まっている | 経営者と何をするのかまで踏み込む |
| 成果が数字で返ってくる環境がいい | 負荷を理解していない可能性 | 成果が出るまでの期間の見込みを添える |
| 御社の実績に共感した | 他社にも同じことが言える | 4つの軸のどれで選んだかを述べる |
4つに共通するのは、「自分にしか言えない部分」が入っていないことです。志望動機は文章の巧さではなく、自分の経歴と接続しているかどうかで差がつきます。
経歴から組み立てる4ステップ
- これまでの仕事で、成果が出た場面を3つ書き出す。規模の大小は問いません。何をしたときに前に進んだかを具体的に書きます。
- その3つに共通する力を1つに言い換える。関係を作る力なのか、数字で詰める力なのか、段取りを組む力なのか。
- その力が最も効く職種を選ぶ。ここで層②の答えが決まります。逆算ではなく、経歴からの積み上げにするのが重要です。
- 4つの軸のうち、自分に必要な環境条件を1つ選ぶ。ここで層③の答えが決まります。
この順で組み立てると、3層が1本の線でつながります。面接では、この線を短く話せる状態にしておけば十分です。用意した文章を読み上げる必要はありません。面接で実際に何が見られているかはM&Aの選考・面接で本当に見られていることで扱っています。
まとめ
M&Aの志望動機は、業界・職種・会社の3層で聞かれます。落ちる原因の多くは熱意の不足ではなく、2層目と3層目を用意していないことです。
そして3層はいずれも、自分の経歴から積み上げれば答えが出ます。成果が出た場面を書き出し、共通する力を言い換え、その力が効く職種と環境を選ぶ。この順番で考えたものは、深掘りされても崩れません。逆に、先に結論だけを用意した志望動機は、二の矢で必ず止まります。
ご経歴から、3層の志望動機を一緒に組み立てませんか。
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